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海堂 尊「螺鈿迷宮」-角川文庫

武田百合子の随筆集を図書館に返したあと、気軽に読めそうな本をと思い標記の本を借りてきた。

とても面白かった!

 のどかな桜宮の町で育ち、今は東城大学医学部の落ちこぼれ留学生の天馬大吉が、小学校以来の女友達・時風新報のやり手デスク別宮(べっく)葉子の頼みで、終末期医療の多面的展開を図る医療法人・碧翆院桜宮病院のボランティア募集に応じ、組織に潜入し、ドジだが実は大変な強運の持ち主という持ち味で一連の事件/あの世に送られる一歩手前という状況をくぐり抜けてきた一件を物語る話である。

 碧翆院桜宮病院を仕切っているのは美貌の双子、桜宮小百合・すみれで院長は父親の銀髪・桜宮巌雄である。例によってさまざまな個性ある脇役が登場し、話は面白く意外な展開をして行く。

 チーム・バチスタで活躍した白鳥も皮膚科医として、この病院に潜入して来る。白鳥に比べ、東城大病院愚痴外来の田口の方は、ほんのわずか現れるだけである。

 この小説で海堂は桜宮巌雄に「ウチの最盛期は戦後混乱期から高度経済成長期。祖父と父が外科中心で回していたその頃は、北の東城、南の桜宮と並び称されていた。その後祖父と父が立て続けに亡くなり、没落が始まった。東城大は無理難題や不祥事の後始末を押しつけ、サテライト病院の如く扱うようになった」、「手術は東城大再発すれば桜宮病院。治療は東城、死を看取るのは桜宮。医療の高度化に対応するための分業体制の確立だそうだ。治る患者は科学の粋を集め最先端治療を結集し、手の施しようのない患者はポイ捨てする」、「終末期医療や死亡時医学検索は儲からない。だから桜宮に押し付ける。ワシは法医学研究室に出入りして検死や解剖を徹底的に勉強した。その結果、死を扱う不採算部門を充実させることが問題解決の王道だ、と確信した」、「ところが医療行政が終末期患者の切り捨てに舵を切った。これでは終末期医療は成立しない。人々の野垂れ死にを前提とするような医療は、医療とは呼べない」、「みんな諦めている。世の中の関心は、そこにはない。メディアがいい例さ。ものの見方が皮相的で、最先端医療は華々しく書き立てるが、終末期医療なんか滅多に取り上げない」、「死者の言葉に耳を傾けないと、医療は傲慢になる」などと語らせている。

 何やら、ユルスナールが『黒の過程』で錬金術師・哲学者・医師ゼノンの生涯に託して語ろうとした主題の、現代日本版の訴えかけである。

 作家海堂の中の医師としての思いが、この銀髪院長の口を借りて語られている。

 面白おかしく読者をはらはらさせ、最後まで読ませるエンターテインメント本だが、この本の中には、上の最後に挙げたような哲学的な思考や、日本の医療行政の中での錬金術的な工夫もちりばめられている。テーマ・焦点の明確な本である。

 かつて、まちづくり本・新書の原稿を書いていた時に、松浦寿輝が「書きたいと思うことは、一つでいいのですよ」、とアドヴァイスしてくれたことを思い出した。

 海堂の本を全部読んでいるわけではないのだが、彼の作品の中で大事に扱われるべき本ではないかと思う。

 本では最後に、巌雄の迫力を彼なりに受け止めた厚生官僚の白鳥に、東城大学医学部の診断部門を切り離し分離独立し、総合診断センターを設立し、そこにオートプシー・イメージング・センター 略称AIセンターを創設する。初代センター長にあなたの着任を望む、と東城大病院長に要請させ、「・・・碧翆会桜宮病院を叩き潰しました。もはや、彼らの役割を引き受けて進むしか道はありません」と語らせている。


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