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エド・マクベイン 87分署シリーズ「キス」(HAYAKAWA BOOKS)

  老人の体操の会が使う腰越支所の3階に市の腰越図書館がある。ここはミステリ関係が充実している。会の始まる時間より早く着いてしまったとき3階に寄り、87分署シリーズのこの本を借りた。しばらく読み出せなかったが返却日が近づいて読み終わったところである。このところ何やかやで忙しかったが、息抜きにマクベインはうってつけなのだ。この本は発行後20年以上経っているので全くのセカンドハンド読書である。

 恵まれた環境にあるカップルの妻がとつぜん命を狙われる状況に陥る。舞台は架空の街アイソラ、その87分署のスティブ・キャレラとマイヤー・マイヤーが事件の謎に取り組む。街アメリカの大都市の例にもれず、さまざまな住民が混在して住み、そこここに荒廃が目に付き、また人種間の問題が露呈されている。

 警察官も地域社会の一員として、それらの矛盾に対して夫々の多様な対処のし方を身に付け生きていて、それぞれに個性的である。日常の何気ない瞬間にも、男と女の感情がストレートに顕われ出てくる。社会の何処にも、その世界なりの掟、組織論理などがあること、などもよく描かれている。

 話はキャレラ自身が取り組む事件と、彼の父親が殺された件の裁判とが並行して描かれて行くが、後者の描写でアメリカの陪審員裁判の実態が明らかにされ、読者の理解を容易にしてくれる。そこでは、陪審員団の構成も白人・黒人・ヒスパニックなどに分かれて、裁判にも強い影響があるので、検事も弁護士も周到な演技力が要求され、裁判は劇場的な様相を呈する。判例が重んじられるわが国の裁判と異なり、はなはだ予測し難いものとなる。検事と被疑者、弁護士の間に刑の軽重を予測しつつの取引も生じてくる。

 いっぽう本筋のキャレラらの捜査でも、情報の取得方法の進歩とともに、情報提供者のや警察側と裏社会の交渉・貸し借りなどが明らかにされる。これらの、刑事裁判の様相や警察活動は、多人種国家であるアメリカ場合、我が国に比べはるかに複雑で入り組んでいるが、犯罪も高度化しまた衝動的になっていく世界・社会を考えると、参考になるところがある。

 以上のような舞台で話は進んで行くが、犯罪捜査や訴追に当っての当事者たちの信頼関係や、悪智慧の限りない進展に対する正義側の連帯や信念なども、随所に描かれていて読者を引っ張っていく。

 そうして最後の最後では、読者の予想をくつがえす結末も描かれて、ミステリ趣味がまた満足させられる。

短いがミステリ・エンターテインメント本の紹介としては以上ぐらいでよいであろう。


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